中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
らゆる痛みや苦しみは全て、悲しみで打ち消す事ができると私は考えている。私は森を濡らす長い雨を王女の寝室の窓辺から見つめながら、そう改めて感じた。私は他者と天気の話等をする人間ではない。私が他者に求めているのは、同じ悲しみの共有なのかもしれない。時々、雷の音が聞こえて来る。話が逸れたが、私にとって、悲しみとは、プラスの作用を及ぼす力があるのではないかと思っているのだ。私は此の巨城の一階に在る調理場で淹れた珈琲を運んで来て、窓際の壁に凭れ掛かり、其れをゆっくり飲んで居た。
「雨は、外見の汚れを洗い落とすだけではなく、内面まで洗い落としてくれるものです」
 王女はシルクのローブの胸元を静かに閉じ、私
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