中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
 
い日溜まりをつくっている。城内には、バロック音楽を思わせる美しい音楽が、礼拝堂から響き渡っている。誰かが演奏している訳では無い。パイプオルガンが歌っている、と言えばいいのだろうか。兎に角、毎週土曜日に、この白亜の巨城を囲んでいる森の中へ入ると、美しい音楽に誘われて、此の城へと導かれるのだ。
 螺旋階段を上がり、幾つかの廊下を渡り、正階段を上がると、其処は王女の間であり、其の窓辺にはいつも王女が立って居て、私の階段を上る音が聞こえると、彼女は振り返り、微笑みを湛えて居る。私は王女に礼儀正しく挨拶を交わすと、細く白く、柔らかな絹で包まれた右手に接吻をする。
「御待ちしておりました」
 王女の美貌
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