中編小説 心と口と行いと生活で 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
ですね」
「礼拝堂のオルガンは、私の心そのものです。そして、此の巨城が土曜日だけ、此の世界に姿を現すのも、私の意思そのものなのです」
王女は私に微笑みを浮かべると、再び窓の外の景色を眺めて居た。潤んだ窓から見える景色は、完全に乾き切っていない水彩絵画の様に美しかった。
其の景色の記憶はそれから私の脳裏から離れる事は無かった。私はふと、施設で徘徊している一人の老女の姿を思い起こした。何故突然、其のワンシーンがフラッシュバックしたのか理由は分からなかった。
「此の雨は、私の感情です。そろそろ、空に暗闇が滲み始める時間ですね。此の巨城と共に、私の存在も此の世界から消えます」
「しかし、
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