中編小説 文芸誌ジョイントオーナーシップ・スペース 作 丸山 雅史/時間が蕩けるアインシュタイン
自分」には多少なりとも文才があるという意地をかけて、と自らに暗示をかけるように君よりも優位な立場に立とうとしている。そんな時君は、全てを悟っているかのようにただ黙って頷いていた。
やがて外が蒼く明るくなり始めると、結局いつものように中途半端に討論は中断される。
「もう帰らなきゃ」
君は最後の一服をして、硝子ドアの鍵を回し、此方を向いてだらしなく右手を上げ、冷たそうな蒼い光が降り注ぐ外へ出て行く。僕にはいつもその光景が名残惜しく、床に並べられた文芸誌に、心が細かい破片の様に欠けていくのを感じる。そして其れ等を元の棚に戻すと、無人のカウンターに一礼し、君と同じ場所から出て行く。
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