花冷え/豊島ケイトウ
 
からかんになれば不審感をいだくのか。
「ねえ、変わったと思わない?」たまらず、訊いた。
「思わない」夫は答えた。
 それからも、わたしは嬉々として「掃除」に勤しんだ。踊ったり鼻歌をうたったりしながら、ゴミ捨て場に通った。
 ある日のことだ。昼下がりという極めて早い時間帯に、背広姿の夫が帰ってきた。洗濯物をたたんでいたわたしは呆気にとられ、ただ、その場に坐り込んでいた。夫は階段を荒々しく駆け上がり、まもなくずいぶんと嵩のある旅行鞄をたずさえて降りてきた。わたしの目の前で仁王立ちになり、
「泣けよ」と、いった。
「泣けよ」ふたたび、いった。
「泣けって」みたびいわれる前には、わたしは涙を
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