即興詩人/豊島ケイトウ
は避けられていそうだったし、家も車もスーツもテレビも電子レンジも歯ブラシも何一つ持ってなさそうだった。当然、恋人もいない。友だちもいない。かりに、神様のいたずらか何か神秘的現象によって恋人や友だちができたとしても、彼はきっと、ものすごく困ってしまうだろう。彼は孤独を愛し、孤独を育てることが彼自身のありかたなのだから。でも、どういうわけか、彼には帰るところがあるようだった。それに身なりもちゃんとしていた。ほとんどTシャツとジーンズという組み合わせだったものの、見かけるたび、違うものを身につけていた。即興詩人は、無論即興で詩を作ることに一命を賭していたが、たまにコンビニの店員をしたり工業地帯に建ち並ぶ
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