即興詩人/豊島ケイトウ
 
並ぶ工場を転々としたりしてなんとか食いつないでいるみたいだった。わたしは一度だけ、詩を作ってもらったことがある。それはこんな詩だ。もともと世界は一連の階段だった/一段一段に彼がいてあなたがいて僕がいる/その下には彼とあなたと僕のご先祖様がいて/「あ」が「あ」になるように「さ」が「さ」になるように/首をひねって/ひねって/ひねるたびに一人死に/二人死に/「ら」が「ら」になる少し前に「ん」を「ん」で終わらす少し前に/階段のとば口はお墓でいっぱいになりました――わたしは今でもときどき反芻する。

戻る   Point(4)