絵本「猫たちの肖像画」/まどろむ海月
、
自分のあらゆる才能に絶望していた彼には、愛する人を幸福にする自
信などとうていなくて、愛すれば愛するほど『あの人をあきらめなく
ては…』という不幸な決意をかためるばかりでした。
実は少女の方もこの若い画家に恋いこがれておりました。毎日むな
しく見下ろす窓辺からふと目を見合わせたこの青年に、その日から彼
女も切ない恋を抱くようになったのです。しかし内気な彼女も気弱な
若者と同じ決意をかためていました。というのも、彼女自身不治の病
にかかっており、自分がまもなく死ななければならないのを承知して
いたからです。
こうして二人は、かたい表情の中に切ない思
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)