絵本「猫たちの肖像画」/まどろむ海月
 
い思いを秘めたまま、互い
の片恋を知ることはありませんでした。


 貧しさと失意の中でやがて画家は死にました。


 一枚の美しい黒猫の絵が残されていました。若者にとっては恋いこ
がれた少女の姿そのものでした。そして遺されたメモから、若い隣人
からのプレゼントとして絵は少女のもとに届けられました。少女は絵
を見て、激しい悲しみのうちにあらゆる事をさとりました。その一瞬、
彼の絵の初めてのそして真の理解者となった少女にとって、その絵は
青年の純粋な愛そのものでした。



 そして激しい至福の歓喜と悲しみの焔(ほむら)の中に、彼
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