絵本「猫たちの肖像画」/まどろむ海月
 
懸命猫の絵を描きま
した。彼にとってその猫こそ「美しい山」でした。ところがそのお客
にとってもそれはやはり「猫の絵」でしかありません。
 若者は親の遺してくれたわずかな財産を食いつぶすばかりで、乞食
のように貧しい生活をするほかありませんでした。


 画家の住む貧しいアパートの向かいのアパートの3階に、画家がひ
そかに恋いこがれている少女が住んでいました。別に美しい女性とい
うわけでなく、どちらかといえば目立たない、しかも病のため戸外に
一歩もでることのできない少女でした。このほとんどひとめを引くこ
とのない彼女をかいま見ては、画家は切ない恋を感じておりましたが、
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