絵本「猫たちの肖像画」/まどろむ海月
 



 すっかり年をとった一人の画家が、一匹のシャム猫を飼っていまし
た。毛なみは美しいグレーで、目の色は緑色でしたが、青さの感じが
左右でいくらか違っていました。画家は猫を抱きあげるとその目を覗
き込むようにしては、誰に言うともなくこんなことをつぶやくのでし
た。



「いいかな、いちばん大切なのは富でも地位でもない。
 愛じゃよ、わかっておるかの。
 おまえさんの目はいつも深い湖水のようじゃて。
 やっぱり左右でいくらか色が違うのう。
 湖水の底に小さな明かりがちろちろ燃えている気がする。
 これは焚火かな。
 焚火に
[次のページ]
戻る   Point(5)