ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
とが出来ない感情の奔流に押し流されるままデブは言葉を紡ぐ、
「僕は前にも恋をしたことがある。でもあの恋は、あの熱狂的な、絶望的な恋は、愛ではなかった、ただの性欲。性欲だけだ、それと自己中心的な考えからきている自分の存在が消え去ることへの不安。ただそれだけだったんだ。同情心なんか相手にもってなかった、思いやりの心なんかなかった。だからあれは愛なんかじゃなかったんだ! 僕は、母山多義子、ははやまたぎこさんが好きだった。大好きだった。でもそれはたんに彼女を支配したかっただけだったんだ! ハレルヤ! ハレルヤ!」
 ドアノブについた油脂をハンケチで熱心に拭きながら、農夫は考えていた。もうすぐ、もうそろ
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