ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
わ。名前なんてどうだっていい。形だけでいい。……ねえ、こんなお話があるの」
「どんな?」
「……ある年老いた菌がね、死に場所を求めてさまよっていたのよ。若い頃は天から授かった美貌で体内から体内へと住処をかえては、各地で絶賛されていた菌だったんだけどね、もうそのころはね、寄る年並みには勝てずに、寄る辺なく道端の糞などに居ついてはかつての輝きを知る味噌商人などに哀れみの眼差しで見られてたんだ。その菌は名前を惟棟といってね。古代九州地方の豪族の姓なの。明智光秀とかも朝廷から賜ったことのある由緒ある名前なんだよ。幼名は竹千代。マラ名はジャンボっていったな、確か。子供が一人いたんだ。惟棟O-357という
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