ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
び降りたら死ぬでしょ? ねぇ? そう思わない?」
とっさのことで何も答えられなかった。彼女はそんな僕をほっておき、また手すりに体を凭れかからせた。
「ああ! 星がきれいね! すごく!」
雨雲はもうどこかへ流れていて、満月が光っていた。暗い空の端に町のネオンがオレンジ色に光っている。一際明るい赤いネオンは映画館のだろう。多角的なネオン……
彼女は異様に痩せていて、数ヶ月間何も食べてないように思えたほどだった。僕は不思議だった。彼女はどうやって生きてきたんだろう? 蛾の羽模様のような服を着た小さな女で、スカートは模様が何も入っていない黒色で襞がたくさん付いている。靴も黒色だった。それに髪
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