ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
佇んでいるとそこはかとなく幸せな気分になっていった。
靴も靴下も脱ぎ捨てて、多義子は噴水の水に足をひたした。自由に、誰からの束縛も受けることなく。彼女は天真爛漫で、妖精のようだった。
「気持ちいいわ。すごく気持ちいいわ」
僕は噴水を囲むレンガの上に座って、噴水池を駆け回っている多義子を見ていた。彼女は少女のように笑っていた。すでに空は白み始めていた。あたりはしんと静まりかえっている。
僕は数時間も女性と話したなんて生まれて初めてだった。ずっと隣同士座って。もっとうまく喋れないことがふがいなかったけど……、でも、嬉しかった。僕は彼女を好きになっていた。
僕と多義子は家に向かって公園
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