ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
いうの?」
「蘭野凛……、あなたは?」
「私は、母山多義子、……ここでキスしましょうよ」
彼女はすばやく僕の頬っぺたにキスした。僕はどぎまぎして、後ろ向きのまま階段を一段降りた。
「危ないわよ」彼女は僕の肩をつかんで、揺すった。それから、
「おりましょう……噴水まで……水を汲みましょう……、あそこって泉よ。足を洗って清めましょ」
と、言った。
噴水の水は森厳な存在感をたたえて拡がっていた。初めて見るような感動があった。僕はたいてい入り口近くのベンチにしか行かなかった。そこのベンチに座って、街灯の下で本を読むのが好きだった。噴水も見に行くことはなかったが、こうして女性と一緒に佇ん
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