ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 

(もう死んでもいいんじゃないかな。飛び降りたら一秒ぐらいだ)10秒、20秒、景色を眺めていると、多義子に肩に手を乗せられた。
「ここからだと街中見えるでしょ?」
「あっ、うん……」
「あそこのファミレスで昔、働いてたことあるんだ。お客の冗談で笑わなきゃいけなかったし、嫌だったなぁ。それでもう誰も相手にしたくなくなったの。夜中バイクで爆音あげて道路走ってる奴らいるでしょ。あんなやつらよ」
「そうなんだ」
「ねえ、じゃあ、あなたの家に招待してよ」
 僕は袖を引っ張られて、そのまま手を引かれていった。螺旋階段を三周りくらい降りると、艶かしい眼差しで僕を見ながら彼女は、
「名前なんていう
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