ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
りたいの?」
「いいえ」多義子は立ち上がった。「そろそろ降りましょ。私の家に行く?」
「うーん……」僕は返事を躊躇して、しばらく、遠く、道路に小さく走る車を眺めおろしていた。誰も遊んでいない種々な遊具やらも…… マンションの明かりがぼんやり光っている。どんな人たちが生活しているんだろう。物寂しい光景だった。淋しくなりポツンと世界の中にただ一人。うつむいて、地上を見下ろすと、はるか下のほうに、地面があり、目まいがして宙に浮いているような気がする。かなり高い。足がわなわな震えてしまう。もう夜明けの時刻。心地良い弱い風が吹いていた。太陽が丸く雲にあたって、うす緑色、その周辺が紅色に染まっていた。

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