ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
だ。そんな中につかるにはお前さんは年をとりすぎている。悪いが、ほかをあたってくれないか』って、主人は断っちゃったんだ。だけど菌は諦めなかったわ。
『十分承知してます。私も死は覚悟しています。ただ菌として生まれた以上、人の役に立つ善玉菌として死ねれば、それで本望です。悪玉菌として生き続けるくらいなら、私は死を選びます』ってね。
 この菌はね、息子のO‐357に死を持って菌としての生き方を示すつもりでいたんだ。陶商店の主人は菌の決意の固さを知るとそれ以上抗弁しなかったわ。
『わかった。お前さんならうちの味を落とす心配はない。思いっきり漬かってくれ』って。
『忝い。ではさっそく』
 言うが早い
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