ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
キムチが看板商品の一つであることは間違いなかったわ。だけどね、陶商店の主人の一番の自慢は辛子酢味噌だったの。この味はここでしか出せないと自負していたし、同業者も陶商店の辛子酢味噌にはまいったね、勝てないよ、あれは本物だよ、と、舌を巻いていたんだ。
木枯らしの吹く晩、O-357の父親は陶商店の門を叩いたわ。
『夜分すみませんが……』って。
『おっ、あんたか。なんだい? こんな夜更けに?』って、主人が言うとね、
『おりいってお願いがあるのですが、私を使ってもらえないでしょうか?』って菌が申し出たの。
『就職の相談かい? うちの商品を見てもらえばわかると思うが、ごらんのとおり辛い物ばかりだ。
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