ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
月前に亡くなっててね、母親と娘だけで暮らしていたの。その親子は祭りに行ったの。父親が病院に入院する日の前日にね、そこで少女は金魚すくいをしてみるのだけど、一匹も捕まえることができないでいたのね。父親がね、hahahaって笑って、
『どれ、父さんに貸してごらん』
 って、そう言って、娘が手に持っていた最中の付いた針金を奪ってね、瞬く間に黒と赤の色調が美しいでめきんを水槽の中から掻っ攫ったんだ。周りで見物していた人たちもあまりの見事さに拍手するほどだったの。少女は父親の立派さと、皆が賞賛しているのが自分の父親だということへの誇らしさで、目をくるくる回して、嬉しくってしょうがなかったわ。父親が死んで
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