ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
たゆたわせている。どれもこれも裸婦で、私は剣を鞘から抜くと、一枚一枚、幾回も幾回も飽きるまで切り刻んでゆく。やがて、私のドレスが赤く染まる。それまで、私は色を塗り重ねては、剣をふるい、私の美貌に狂気じみた翳りがうつり始めるまで、この遊びに我を忘れてしまう。疲労した私の魂は鏡台に写る私の美貌に目を奪われ、俗悪なこの世界から離れた精神の高みに運ばれ、安らぎ、また、腐敗した日常に戻ってゆく。なぜ? なぜ私だけが美しいのだろうか? なぜ私以外の者は醜いのだろうか? そうだ、私という美の象徴を際立たせるため、他の人間たちはあんなにも腐りきっているのだろう。醜いものは許せない私だのに、彼らを見ると一種の哀れみ
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