ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
ろう。薄汚れて、ドブ臭い魂に成り果てた者たちの眼には私の姿も薄気味悪く映るに違いない。どうやら私は美の極致にまで至りすぎたのかも知れない。だが、なにゆえ、下界にとどまっていなければならないのだろうか? 私のように転生の才能を下嗣された選ばれし麒麟児にはこの世界の道徳を踏みにじる権利と、義務があるのだから。そうだ。私はまだ19歳の、未成熟な詩人に過ぎない。大らかな気懇に促され、私は美を謳うだけの一介の詩人、それだけだ。私はこの世に美を見出そうとして果たさなかった。絶望に打ちひしがれた私は、鏡の中に美を見出したのだった。美とは私だったのだ。私が美を謳わんと欲すれば私自身を謳わなければならない。だが、私
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