結婚式、ラップタイム、二日酔い/ブライアン
 
蝉の声がする。蟋蟀の声もする。ちょうど、秋と夏が混ざった季節なのだ。トンボが駅前の駐車場に無数に飛んでいた。風が吹く。既に、過去形になった土地だ、と気づかせる、冷たい風。友人の招待状を握り、スーツの内ポケットにあるお祝いのお金を確かめる。
 既に知っていることだった。折を見て帰るたび感じることでもあった。もう、この土地は過去の土地でしかない、と。いつか戻るのだ、と信じてみたところで、道しるべにしていたパン屑は、烏に食べられたようだ。何度も振り返り、パン屑を探してみたところで、一向に見つかりはしない。もう、故郷には戻れないのかもしれない。
 
 宿泊する予定のホテルにチェックインし、かつて毎日
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