こっぽう/竜門勇気
 
月日という名の病に冒されていたんです。半世紀以上の時間が流れていましたからね。
ただ、病によって時を止められた彼女は美しく、そして僕のけがれすらも知らなかった。僕は手足が冷たくなる感覚をせめて食い止めようとその男を見つめながら老いた体で彼女を抱きしめたんですよ。
かつてなら彼女を締め殺してしまってもおかしくない、それぐらいの精一杯の力で。

それでも彼女は笑いながら

「貴様のようなクズで歯クソ以下のチンケな豚野郎が愛しいなんてね」

そう言って、黙りこくって、そして泣きました。

俺はもう涙も出ませんよ。必死に真似た彼女の口調。もう必要のない彼女の物真似。
血しぶきもとまん
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