或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
 
具体的な根拠はない。伯母のよく見せてくれる世界の写真は自分の写っていないものばかりで、そのほとんどが絵葉書だった。

両親が共働きだった僕は、よく伯母の住むマンションへ遊びに行った。学校から家には帰らないで、ランドセルを背負ったまま伯母の部屋に行くことも多かった。大抵、彼女はベッドで寝ているか、キッチンのテーブルに座って煙草を吸っていた。そして、日が暮れるとシャワーを浴び、化粧や服の準備をして、僕と一緒に家を出る。僕はそのまま誰もいない家に帰り、彼女は仕事に行くのだった。一度だけ「しごとって何してるの?」と聞いたら、問いにはいつもずばっと即答する伯母が少し立ち止まって考えてから、「嘘をつくこと
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