或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
 
僕が大阪に向けて出発するとき、いつもの癖で伯母の部屋の前まで来てしまった。馬鹿みたいな話だが、伯母の死を伯母に報告しに来そうになったのだ。この向こうで、今でも伯母が暮らしているのではないかと思ってしまうけれど、もうその部屋には誰もいないのである。僕はドアノブに手はかけなかった。彼女がいるなら鍵は開いている。いなければ、閉まっている。それがわかるのが恐かった。
僕の人生から何かが抜け落ちていくのを感じた。それは致死量に近い喪失だった。帰り道は意図的に新幹線に乗らずに、伯母のことを思い出しながら電車に揺られていた。僕の携帯には伯母の電話番号とアドレスが入っている。僕は結局、彼女に一度も電話をしなかっ
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