或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
かったことになる。彼女はいつでも電話しろと言っていたから、本当は今すぐにでも電話をかけて、幽霊でも奇跡でも嘘でも何でもいいから、彼女の声を聞きたいのだけれど、僕は通話ボタンを押すことができなかった。「僕からの電話ならいつでも出てあげる」と言ってくれた伯母の言葉を、僕が電話することで「嘘」に変えてしまうのではないかと思った。
伯母は多くの人に「嘘つき」だと思われている。また多くの人にそう言われている。伯母は「嘘」をつくことが仕事だったからだ。でも僕に対して、「嘘」をついたことは一度もなかった。伯母が僕に話してくれたどのお話も、僕にとっては嘘ではなかったのだ。僕は伯母が大好きだった。彼女は今「嘘のいないところ」にいる。そこで僕からの電話を、首を長くして待っているのだ。
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