或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
水のきれいなところ」と即答した。そして、しばらく考えた後、「あと、嘘のいないところ」とも言った。「いない」という表現に僕が引っかかっていると、「嘘というのは、カワウソみたいな腹黒い獣なのだ」と教えてくれた。都会は水が汚いので嘘が増えるというのが、伯母が導き出した結論であるらしかった。
結果的に、それが生きている伯母を見た最後で、僕が大阪行きの新幹線に乗っているときに父から電話が入ってきて、僕は猛スピードで故郷を離れていく新幹線の通路で、初めて電話越しに父の声と伯母の訃報を聞いたのだった。父の声が硬かったのは、電話のせいだけではないように思えた。
新大阪で母親と合流したときに、伯母の死のことを伝
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