或る嘘つき女の生涯/木屋 亞万
 
出発する前日に、父が携帯電話を買ってくれた。「何かあったら、いつでも連絡してこい」と言ってくれた。
僕はピカピカの携帯電話をもって、伯母の家に向かった。彼女は珍しく活動的に部屋を動き回っていた。どうやら荷造りをしているらしかった。長い髪を後ろで結んで、硬そうな耳がニョキッと出ていた。その耳は少し赤かった。「携帯電話、買ったんだ」と言うと、「そっか、もう一人前だ」と言って、アドレスと電話番号を交換してくれた。「メールは面倒だから、だいたい電話で済ませてね。あんたからなら、いつでも出るから」と言った後、「でもへんな時間に電話してこないでよ」と付け足して笑った。どこかに旅行にするのかと聞いたら、「水の
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