失恋に溺れて/チアーヌ
 
えず黙った。
「さて。じゃ、本題に移るわね」
 小早川さんは持って来たバッグから、大きめの封筒を取り出し、それをわたしに差し出した。わたしは戸惑いながら受け取った。
「わたし、もうすぐ定年で今の会社をやめるでしょう。そのあと、個人事務所を立ち上げることにしたの。それでそこへ、あなたにぜひ来てもらいたいのよ。詳しい事はその封筒の中の資料を見てちょうだい。なんといっても半年もお休みしたんだから、もう疲れは取れたでしょう」
 小早川さんはにっこりと微笑むと、わたしの肩に手を置いて、
「待ってるわ」
と優しく言い、アパートの玄関から軽やかに出て行ってしまった。

 部屋の中にひとりになると
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