失恋に溺れて/チアーヌ
 
こと言っても、悪いけどバカにされるだけよ」
 ワインのデキャンタを独り占めして飲みながら、俊彦の愚痴を聞き流すのは楽しかった。俊彦には、どこにも、わたしを緊張させるものがなかった。俊彦はまだこの世界のイロハを知らない可愛い男の子で、気がつけば、わたしのちょうどいいストレス解消の相手になっていた。けれど、それはそれだけの話で、それ以上でもそれ以下でもないはずだった。

 でも、とある飲み会の晩。
 いつのまにか夜が更けて、わたしは酔いで半分濁った目で俊彦の指先を見ていた。俊彦の横顔、そして煙草に火をつける仕草。足を組む。ほどく。笑う。グラスを口に運ぶ。そんな様子を見ているうちに、なんだかわた
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