東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
同じラブホテルの違う部屋で、再び僕らは交わる。愛無き、行為。長椅子の上で交わり、果てて、そのまま僕と彼女は抱き合っていた。彼女は夜の不安定さを増して行き、彼女の日常に対する感情を少しずつ吐露していった。次第に大きくなるその負の感情を抑えきれずに、彼女は大声で泣き始めた。
「あんな奴等、大嫌いだ!」
泣き喚く彼女はまるで少女の様だった。僕は彼女を抱きしめたまま、頭を撫でていた。過呼吸気味になった彼女を落ち着かせて、それでも尚、ずっと抱きしめていた。それすら、愛では無いのだ。対処でしか無いのだ。僕が不安定な時にされたら落ち着くであろう事を、僕はしているだけなのだから。彼女は同情を嫌
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