東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
歩いていたのだ。それでも、生きたいと思う本能が、その存在を知らしめる事を躊躇わせていたが…。
翌朝、喫茶店でうつらうつらとする僕に、彼女は言った。
「眠ったままでいいから、聞いてね。私、あなたに会って帰ったら、死ぬんだと思ってた。それでも、あなたが私を綺麗だと言ってくれたから、もう少し生きてみようと思うんだ」
僕は、薄れ行く意識の中で、彼女が泣いているのを見た気がする。
そう、僕は彼女を生かした事になる。彼女は自殺するつもりで会いに来た訳じゃないだろうが、夢は死をもって完璧となり、彼女はその運命を予感していたのだろう。しかし、僕が彼女を綺麗だと言った事で、僕は彼女に生きる事を
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