東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
なるの。ごめんね」
彼女はそういいながら。
黒目がちなその目は、時々深い穴の様だった。そして僕を不安にさせる瞬間があった。飲込まれそうだとか、見透かされているとか、そういう事では無かった。ただ、その深い穴の様な、黒い瞳に見つめられていると、とたんに様々な疑念が脳裏を支配するのだ。
正直な話、僕はその夢の間に、彼女に殺されてもおかしくないと思っていたのだ。興味と欲情を持って彼女に会い、夢を見せるとは言え、彼女を傷つける事に代わりは無い。故に、彼女に殺されても文句は言えないと思っていた。僕のカバンにはナイフが入っていた。この時は、護身用では無い。彼女が、一思いに僕を刺し殺す為に持ち歩い
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