東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
 
は何やら自分のカバンから何かを探しているようだった。僕は再び混濁する意識を睡眠の方に向けた。彼女は目的を終えたのか、狭い座敷に転がるベッドに腰掛けるのを、それの傾きで理解した。僕は背を向けたまま、混濁したままの意識で、彼女の気配だけを感じ続けていた。
「ねぇ、起きてるんでしょ?起きてるんでしょう?起きてるんでしょ!?起きてるんでしょう!?」
 彼女は唐突に僕に向かって叫んだ。朦朧としながらも聞こえたその言葉に、僕の心臓は一瞬で冷たくなり、覚醒を余儀なくされた。僕はゆっくりと寝返りと打ち、小さく相槌を打った。
「嘘つき…」
 彼女は俯くと、大きな声で泣き始めた。
「夜になると、おかしくなる
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