東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
で」と言う言葉がそれをせき止める。その言葉すら、僕の意識を崩壊させそうだったが…。僕は彼女にとって特別な存在であった。もう二度と、誰かにこれほど愛される事は無いかも知れない。その愛の激しさから、彼女が病んでいる事を差し引いても、僕が生きている間に、あれほど愛される事は無いかも知れない。
その彼女の愛すら夢であるかも知れない。ただそれを否定するように、僕の胸元には小さな懐中時計がぶら下がっている。
何事も無かったかの様に日々を始める。東京駅で振り向かない事だけじゃない。0と1の情報の海でも、僕は振り返らない事を約束したのだ。でも、たった一度、それを証明する事を、約束した。それはすぐに埋も
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