東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
 
、その余韻を、味わっていた。愛がなくとも、それは心地よい、余韻だった。







 目を覚ますと、そこは埃臭いクーラーの聞いた部屋だった。いつもの見慣れた部屋だった。クーラーが低いうなり声を上げている。
 手の中に、既に熱い抱擁の余熱は無い。舌先も唇も、接吻の後の湿った感触を失い、乾き切っていた。彼女は家に帰れたのだろうか?僕は彼女の言う最低である事が出来たのか?夢を見せる事が出来たのか?振り向かない事でその夢は鮮やかに終われたのか?僕は上手く笑えていたのだろうか?
 何日か後に、0と1の情報の海で、彼女の日記を読んだ。そこには夢を見た事や、憎い程に夢が完璧であったと書かれ
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