私以外の誰かに/錯春
れ
年輪を切りつけた裂け目みたいだった
早く帰らなければ
君は一刻も早く帰らなければ
行き場をなくしたグロリオサはすっかり青ざめて
君の指先にぐったりと身体を預けていた
新鮮なうちに花瓶にさせば
きっと生き返ることだろう
そしていつしか誰かの手に渡る
私ではなく
君を愛する誰かの手に渡る
夕暮れどきの軒先から
沸かした味噌の匂いがする
堤防を歩く
テトラポッドの曲線
苔だろうか貝だろうか
影がすべてを真っ黒くするから
君が振り向いて聞く
フジツボかなぁ?イソギンチャクかなぁ?
誰も正解を知らない
だって海は黒いんだから
そこに何があるかなんて好きに決め
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)