私以外の誰かに/錯春
決めていいんだから
答えないで笑ってみる
真っ黒い君の後頭部
それともこちらを向いているのか
波に乗って反芻される
フジツボかなぁ?イソギンチャクかなぁ?
背を向ける君の指先で
手遅れのグロリオサが溜息をついた
また今度、と君が言い
そのうちね、と私が返す
これが最後だなんて言わないでね、と
お互いの顔に書いてある
また会えるよ
すぐ会えるよ
わかりきった言葉は
言わずとも構いはしない
それが一番悲しいのに
私も君も悲しがるのが好きだ
明日にでも君は愛され
私以外の誰かに愛され
すべての恋人達がそうであるように
愛し合う者達だけに許された決闘が始まり
やがて断りもなく傷ついて死に絶える
その傷は鮮やかなことだろう
血潮は陽射しを吸ってポカポカと温かいだろう
私は君以外の誰かの横で
君以外の誰かのことを考える
君を愛さなくて良かった
君をこの手で殺さずにすんで良かった
君をあのとき
抱きしめてやれば良かった
戻る 編 削 Point(2)