話しかける五月/小池房枝
 
もゆっくりとしか動かない雲たちなのにそれぞれの向き


地球照あわい光を内側にたたえて月は遠い金魚鉢

イソギンチャク触手に指を絡めさせそれからそっと引き抜く感触

エンジンに火の息通わせ身じろいで震えて船は埠頭を離れる

早苗ではなく麦でもなくイタリアングラスの上を吹き渡る風

鳥はもうお帰り海に泊まるのか夜ごと異なる波のしとねに

五月から六月にかけて落日は山並ごしに多摩川を渡る

キウィ棚は黄色いキウィの色をした一重の可愛い花で鈴なり
 
タンポポにちっちゃなハチが潜ってた見渡す限り何色の世界?

水晶をもてあそびながら雨音に沈んだ世界のバラードを思う
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(16)