手/森の猫
「ほら、パパもこっちへおいで。翔ちゃんこんなことできるもんね〜」
片言をようやく脱した翔は、生意気なことばを言いながら動き回っている。
ここ2、3日で急に寒波が来て今にも雨からみぞれに変わりそうな寒い夕暮れだ。週末の夕方にもかかわらず乗換駅でもない都会のど真ん中のプラットホームは人もまばらだった。少し前に渋谷方面行きの電車が発車したばかりだ。
朱実は今日もエステスクールで先生に怒られ少し気分が沈んでいた。いじけて傘の雫をくるくる回してうつむいていると元気な子供の様子が気にかかった。
「翔、その黄色いボチボチから出たらバイバイだからな。」
穴あきジーンズを自然に着こなした翔
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