薄暮/within
書く人間であったが、彼と詩についての話は全くせず、まるで古女房のように、時折、彼のアパートを訪ねてきては、あれこれと片付けやら食事やらの世話をしてくれた。だからといって、彼に対しての好意は、恋愛感情といったものではなく、年老いた父親の介護をするような態度だった。
彼は落ち着かず、アパートの前に出て、煙草をくゆらせていた。何時に訊ねるという細かいことは書いてなかったし、通例、映子は唐突に訪れることが多かったため、細かい神経の彼にとっては、待ち時間を落ち着いて過ごすことができなかった。
今日は日が高い。真昼であったが、この路地を通る者はいなかった。
彼はアパートの鍵を開けたまま、路地を抜け
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