薄暮/within
 
 若干、乾いた口腔が潤いを求めていた。炊事場におかれたハッサクの瑞々しさを想像すると余計に口腔が乾いていくようだった。
 不意に、玄関のチャイムが鳴った。彼は急いで風呂からあがった。無造作に身体の露を拭い、シャツとズボンだけを履いた。
 扉を開けると、外には、こぎれいな制服姿の男が立っていた。男はまだ若い、おそらく三十代の理知的な面相をしていた。
「今日のお夕食をお持ちしました」
男はプラスチックの箱を持っていた。中身は今晩の夕げ。受け取ると、彼は「神のご加護があらんことを」と言って立ち去った。老人はまだぬくもりの残っているパッケージを持って、扉を閉めた。中途半端な入浴だったせいで、どこか
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