薄暮/within
むことができるのか……と彼は席を立った。貸し出し口にいる職員の女に近付いた。
「症例Kのカルテはいつ閲覧できるのかな? 」
と女に訊いた。女は眼鏡の奥の眼を動かさずに
「あれは病院関係者によって毎日更新されているので、アクセス権限が一般ユーザーの閲覧は難しいですね」
「ずっと予約しているのに」
と食い下がったが、女が「すみません」と頭を下げるので彼は諦めた。
図書館から出ると、しっとりとした空気が彼の萎えた心を湿らせた。この空白に光があれば、まばゆい光があればと希求したが、その願いは虚しく道の上で轢かれるだけだった。
途中、男の子が駆け寄ってきた。笑っていた。その幼さに彼は何も心
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