午後/榊 慧
と砂糖)がオーブン用の鉄板に並べられて置かれている。
あ、といった風にくじくんが顔を上げて俺を見た。
「そういや俺、本多勝一の日本語の作文技術、昨日古書店で見つけた。」
くじくんがどこかかくかくしている足取りでシンクから離れる。部屋の壁際に行く。くじくんは本を壁の隅の方から足元に積んでいるからだ。
「あと蘭学事始。岩波文庫の」
俺に見せる。渡す。くじくんは日本史じゃなくて世界史やってたんじゃなかったっけ、と思って蘭学事始を眺めていたらくじくん、これ福沢諭吉も読んでんだよそれ十三歳のとき知ってさあ、と、そうなんですか。
「これ置いてあんの見てそのことが頭に沸いてさあ、買うでしょここは」
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