メーデー/salco
れぬ暗黒のようで、かすかな死臭が鼻先に触れた時、私は窓
から顔を跳ね退けた。
皮肉にもそれはソヴィエト連邦崩壊のわずか1、2年前だったが、長男は
そんな父に対する餞別として、マルクスの「共産党宣言」文庫上下巻を告
別式の朝に書店で求め棺に入れた。幼時より女児偏愛主義の親父から猫か
わいがりされた覚えもないのに、男子というのはひどく優しい。弟は弟で
、初々しい家庭に父を招いては初孫と触れ合う機会を与えていた。
思えばこうなる3、4年前に、電話もない廃屋で体調を崩した父の救助要
請を受け妻宅に連絡を入れてくれたのも新聞配達員の、朝日か赤旗かは知
らないがやはり男性で、そんな父を迎
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