梅雨/なまねこ
わり、僕はその下を歩く。見下されながら、生きるだけだ。虫は暗い空の鳥を見上げている。
眠気がひどくなってきた。体中のいたるところの穴から入り込んできて、僕をくるみ込もうとする。冷えたまぶたがあたたまってくる。この熱は手足から奪われたものだ。誰のものでもなく、この手足から。街灯のポールに触れると、かすかな震えを感じた。命だ。
朝になっていた。
清潔に髭を剃った老人が目に入った。近づいている。僕を見ている。家出か、と言った。綺麗な標準語だった。眠っているうちに僕の涙は乾いていた。
老人は船に乗るのだと言った。日が高い時間の船に老人はよく似合いそうだった。僕はそう言った。品の無いエンジン音の中で
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