梅雨/なまねこ
 
えた。この線路は山を縫うように走っている。おそらく。
夜は暗いものだ。あまりにも暗いと不安になる。灯りを見つけて安心し、昆虫のように寄り付いていくとまた不安をおぼえた。光の下には必ず先客がいる。その場所を守るために、何か棘を持った生き物がいる。
切符を持たない人は改札を通れない。真っ暗な線路を歩き、柵をよじ登るしかない。足元でセミの弱弱しい鳴き声が飛んだ。秋が来る。
目の前に波止場がある。コンクリートがいびつに変形している。波が削ったからだ。人はいない。船があった。もやい綱で鉄の突起にくくりつけられていた。綱に釣り針がたくさん刺さっていた。
まぼろしのように寒い。肌と唇がざらついている。頭
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