梅雨/なまねこ
時間、ここにはオレンジ色の電車が止まっている。誰が知っていて、誰が知らないのか、それさえ誰も知らない。伝わらないからだ。ペンキがはげかけて、薄汚れていた。僕は覚えている。それに乗りこんだからだ。
山が遠い。レールが山すそから離れていく。ほとんど誰も乗っていない電車だった。アナウンスも無い。骨のきしみが止んだ。代わりに車体の揺れる音が木の無い世界の鳥みたいに回っている。どこかで携帯電話が振動している。誰かがいるのだ。この電車のどこか近くに。
会うこともなかった。息遣いだけが聞こえて、それもじきに消えた。電車は止まり、ドアが開いて空の向こうから硫黄のにおいがした。赤土がむき出しになった山肌が見えた
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